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手品ができれば もっと楽しい…

「知多っ子」(1994.07.01)


 30歳のときから5年毎に手品の本を出しているという近藤さん。本の中で紹介している手品は、どれも身近なものをタネにして簡単にできるものばかり。それらを見事な話術と手さばきでさらりと披露してくれた。ものが消えた瞬間呆気にとられていると、近藤さんの嬉しそうな顔があった。その表情からは、手品は手先の器用さだけで行うものではないという、手品の本質を知ることができる。

――手品を始めたきっかけは。
 高校2年生の時、文化祭で先輩が手品をするのを見て“おっ”と思ったんです。早速デパートへ手品の道具を買いに行きました。

 それからは手品にのめり込んで熱病みたいなものでしたから、大学も学部じゃなくて手品のクラブ活動ばかり見ていたんです。それで進んだのが関西大学。大学4年間、手品クラブで活動し、卒業後は仕事をしながら名の知れた大阪、東京の手品クラブとおつきあいしました。

 とにかくサラリーマン時代は時間がなくて、出世したら自由になると思っていたのに、かえって忙しくなって。これではダメだと思い、自分で給゚藤印刷をおこしたわけです。それから5年たった今、やっと余裕が持てるかな、という状態になりました。

――手品のコツみたいなものは。
 手品っていうのは相手がいるんですよ。たとえばクッキーを作るとしたら、自分がおいしいって納得すればいいと思うんです。手品はそうじゃないんですね。相手がいて“あ、不思議だな”とか“楽しいな”と思ってくれないことには、手品として成立しません。どうせ、相手があってのものなら、僕は元気が出る手品をやりましょう、と。手品を演じる上で、資質は何も必要としないんです。ただ、自分も楽しんで相手も楽しませようって言う気があるかないかです。

 以前、公民館でマジック教室を開いた時、参加した方にどうして手品を覚えたいのか聞きました。皆さんそれぞれ理由があったんですけど、10何人いた中で一番早く手品を覚えたのが70過ぎのお婆さんでした。孫の誕生日会のために1つだけ覚えたいということで、「ただ孫の喜ぶ顔を見るのが楽しみで」と言っていました。

 僕の手品では、テクニック的に難しいことはほとんどやりません。同じ道具は見たことがある、だけどやることは違う。これでもか、これでもかと演出を変化させていくんです。

 道具や仕掛けそのものが珍しい手品は、5分か10分練習して、やり方さえ間違えなければ誰でもできます。見ている10人のうち5人はそれだけで驚いてくれるでしょう。それは道具がいいからです。すると今度、欲がでてるんですね。5人までは道具で驚いてくれても自分の努力じゃない。あと、自分の楽しみは、6人目が不思議がって手を叩いてくれるかどうかですよ。僕はパーフェクトとまではいかなくても、7人目、8人目、9人目まで楽しんでもらいたい。

 マジック教室の卒業生が今でもたまにおさらいをしてほしいと訪ねてきます。彼らはこれをやりたいと道具を持って来るので、教えるのは10分か15分あれば終わってしまいますが、僕は「あと3回来なさい」と言うんです。僕が教える以上は道具だけじゃない、6人目を楽しませる手品を何とか演じさせたいと思うわけですよ。

 そこで何をするかというと、自分は世界で一番うまい手品師で、今この手品を見ることができる皆さんはものすごく幸せなんですよという気持ちで舞台に出て行きなさいと教えるんです。スキップしたくなるぐらいハッピーになって舞台に上がったら、頭を下げる前にニッコリ笑いなさい。楽しくて楽しくてしょうがないという顔をすれば、見ている方だって楽しくなるわけです。そこから手品をはじめなさいと言うんですね。

 タネが落ちても、3つやるつもりが1つしか出来なくても、失敗したとは言わずに開き直ってしまえばいいんです。お客さんは何をやるか知らないわけですから。失敗したと思うとお互い楽しくありません。もっと素晴らしい手品にしてあげたいと思うから、手品の技術プラスアルファーでそんな話をしています。それだけのことでも彼らはうまくなった気になれるようですよ。

 普通、手品を習うとタネあかしをしてはいけないとか、しっかり練習してからとか教えられるものですが、僕はどんどんやりなさいと言います。そして、教えてもらったら手品の良さを知るために家に帰ってすぐやらせるんです。家族が3人いたとすると、1人ずつにやれば3回練習できるんだから、そのうちに1人でもすこしでも“あーっ”と驚いてくれれば次へのはげみになりますし、自分の満足感も味わえます。

 僕にとって、手品ができることはあくまでもスタート地点。タネや仕掛けは手段にすぎず、そこからいかにコミュニケーションをとっていくかというのが手品の奥深さであり、楽しみなんです。




 

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